夢見草の裾で
「縁談、ですか」
ある晴れた日の午後。
父からおもむろに切り出された話題の断片を、思わず復唱した。
お相手の家柄や、素行、ご趣味を嬉しそうに語るその声が
右から左へと流れるように消えてゆくのが、自分でもようく解った。
だって、その内容が
私への「相談」ではなく「報告」だったのだから。
先様から預かったらしい小さな箱が、
柔らかな音を立ててテーブルに置かれる。
生まれて初めてもらう箱なのに、中身がわかってしまう理由が
覚悟なのか、諦めなのか、
このときの私にはわかるはずもなかった。
「とても素晴らしい青年だよ。
ぜひ一度会って御覧。
私は、お前に幸せになってもらいたいんだ」
「・・・・・・・・・お父様、私」
「お話し中失礼いたします。
旦那様、馬車のご用意ができました」
「いけない、もうそんな時間か。
すぐ行くと伝えておくれ。
お前は、預かった箱の中を見ておおき。
きっと気に入るよ」
蹄の音が遠くなるのを聞きながら、小さく、息をつく。
戦争が終わった平和な時代で、何不自由なく過ごしてきた。
いつも誰かの手に守られながら、生きる道を導かれ、
受け取るばかりで積み上げられた私の人生。
自分で決めたことなんて、何一つない。
私は、籠の中の小鳥。
与えられた世界だけしか知らず、
穏やかな流れに身を委ねることを「幸せ」だと思い込んでいる。
ずっとそうしてきた。
疑ったことなんかなかったのに、
このままでいいのかと胸の内で自問する。
激情と静寂が
心の中でぶつかり、
弾けて、
ひとつとなり、
込み上げてくる。
言葉にならない声が、喉の奥に落ちる。
息を詰まらせる鼓動は、私に何を伝えたいの。
氷のように冷たい約束の輪は、誰の笑顔につながるの。
誰か、私の声を聴いて。
答えを教えて。
この指は、なぜ、震えているの?
誰か、
教えて。
お願い。
そのとき、はっきりと聞こえた。
静かな水面に広がる波紋のように、それは響き渡った。
今まで聞いてきたどんな音よりも優しく、切ない、
空気の震える音。
ああ。
なんて。
「なんて、綺麗なのかしら」
これが、私と貴方の最初の出会い。
始まった恋の物語。
【夢桜】
リン:ゆず李
レン:沖田鈴
写真:香月
激情と静寂が
心の中でぶつかり、
弾けて、
ひとつとなり、
込み上げてくる。
言葉にならない声が、喉の奥に落ちる。
息を詰まらせる鼓動は、私に何を伝えたいの。
氷のように冷たい約束の輪は、誰の笑顔につながるの。
誰か、私の声を聴いて。
答えを教えて。
この指は、なぜ、震えているの?
誰か、
教えて。
お願い。
そのとき、はっきりと聞こえた。
静かな水面に広がる波紋のように、それは響き渡った。
今まで聞いてきたどんな音よりも優しく、切ない、
空気の震える音。
ああ。
なんて。
「なんて、綺麗なのかしら」
これが、私と貴方の最初の出会い。
始まった恋の物語。
【夢桜】
リン:ゆず李
レン:沖田鈴
写真:香月
by tbsuuuuu | 2016-06-14 21:03 | 写真 ◆WEB拍手◆